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「ハヤテのごとく!」
一人三役

一人三役

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 G.W.も終わったとある日曜日。
 お嬢様やヒナギクさん達はせっかくの日曜日だからとショッピングに、ルカさんは営業に出掛け、ムラサキノヤカタに穏やかな時間が訪れていた。
 耳に届くのは、新緑で身を飾った木々が擦れる音と僕がお皿を洗う水音だけ。
 開け放した窓からは心地良い風が吹き込み、僕の髪を少し揺らした。

「……そろそろ、ですかねぇ」

 家事を一通り終えたのか、食卓に座ってお茶を飲んでいたマリアさんが不意にそう呟いた。

「……なにがそろそろ何ですか?」
「いえ、そろそろハヤテ君の髪を切った方が良いかなと思いまして」

 水道を止め振り返ると、マリアさんは指でハサミを作りチョキチョキと髪を切るジェスチャーしながらそう答えた。
 その言葉に前髪をつまんでみると、なるほど。確かに前髪は目にかかるくらいに、後髪も肩まで届きそうなほど伸びている。あまり気にしていなかったが、そろそろ散髪しなければ邪魔になってくる頃だろう。それに、週明けを爽やかな気分で迎えるのも悪くない話だった。

「確かに、そろそろ切ったほうがいいかもしれませんね」
「えぇ、あと髪量も多そうなんで少し梳かないと暑くなってくるでしょうし。今ならちょうど暇してるので切ってあげますよ」

 マリアさんの提案に僕は頷く。
 どうせ今日はお嬢さま達も外出していないことだし、これ以上仕事も増えないだろう。髪を切るにはちょうどいいタイミングだ。

「じゃあ、お皿洗いが終わったらお願いします。すぐ終わると思うので」
「分かりましたわ。私はその間に準備しておくので終わったら来てくださいね」

 そう言って、マリアさんはお茶をぐっと飲み干した。それから、立ち上がり散髪の準備をしに自室へと向かう。

「……しかし。マリアさんはスゴいなぁ」

 その後ろ姿を見て思う。
 たったの18歳(本人談)で炊事洗濯掃除を始めとした家事全般を完璧にこなし、ガーデニングや散髪まで守備範囲。更には文武両道才色兼備と、ヒナギクさんに負けず劣らずの完璧超人であるのだ。
 三千院家に育てられたとは聞いているけれど、一体どこでそんなスキルを習得したのだろうか。
 いや、むしろ、マリアさんは帝お爺さまに気に入られていたハズだ。そんなスキルなんて無くてもお屋敷で生活することができただろう。

「――じゃあ、なぜ?」

 そう呟く。
 出会って一年半にもなるであろう女性の謎にほんの少し興味を覚えつつ、僕は蛇口を捻るのだった。



「さてお客さん、こちらへどうぞ」

 皿洗いを終えマリアさんの部屋に向かうと、ちょうど準備を終えたところだったようだ。
 扉を開けると、マリアさんは冗談めいた口調で鏡の前に置いたイスをポンポンと叩き、そこに座るよう促してくる。

「あはは、じゃあ失礼して」
「ではお客さま、今日はどのような髪型に致しましょうか?」
「そうですね……。だいたい二センチから三センチくらい切ってくれればそれで」
「えー……」

 希望を告げると、それまでの笑顔を一転させ不満げに頬を膨らませるマリアさん。
 どうやら単純な注文にご不満なようである。

「もっと他にないんですか? バルーンボブにしてくれとかパフィーボブにしてくれとか」
「いやいやいや! 女の子じゃないんですから普通に短くするだけで良いですって!」
「ちなみに私はですね、ハヤテ君にはボブより髪を編んでみるのが似合うと思うんですよ!」
「人の話聞いてます?! って言うか最初からこれが目的ですか?!」
「ハヤテ君、いいですか? ハヤテ君は可愛い顔してるんですから可愛くしないともったいないおばけが出ちゃいますよ」
「いや、出るなら好き嫌いの激しいお嬢さまの方にお願いしたいんですけど……」
「もう。全くわがままですね、ハヤテ君は」
「え? あれ? これ僕が悪いの?」
「で? 希望は何でしたっけ? ショートボブですか?」
「だから二、三センチ切るだけでお願いします!って言うかボブばっかですね!」
「まぁ、ハヤテ君がイヤなら仕方ありません。普通にやりますか」
「普通にやらないつもりだったんですかっ?!」

 マリアさんはそう言って、残念そうな表情を浮かべて櫛を手に取った。
 それから、僕の髪を梳かし始める。

「けど、ホント女の子みたいな髪質ですわね。サラサラしてて、全然櫛が引っかかりませんし」
「そうですか? 特に手入れとかはしてないんですけど」
「むむむ、それは全国の女の子を敵に回すので口にしないほうがいいですよ」

 そんな雑談を交えながら梳かし終えると、マリアさんは次に霧吹きで髪を湿らせた。そして、慣れた手つきでもう一度さっと櫛を通し、ハサミに持ち替える。

「じゃ、ジッとしてて下さいね……」

 どうやら後髪から切っていくようだ。
 ちゃきちゃきちゃき、というハサミの音に呼応して、ぱさりぱさりと髪が床に落ちる音が耳に届く。

「……そう言えば、ハヤテ君」
「なんですか? マリアさん」
「最近ナギは学校でどうしてます?」
「まぁ、基本的にゲームしてますね」

 ぐりっ。
 僕がそう言うと同時に、肩のあたりに鈍い痛みが走る。振り返ると、マリアさんがじとっとした視線をよこしていた。

「高三にもなってゲームしてるナギもどうかと思いますけど、ハヤテ君もちゃんと注意してください。ハヤテ君が注意しないと、あの子もすぐ調子乗るんですから……」
「一応、注意はしてるんですけどね……」
「今に始まったことじゃないんで良いですけど……。それで、他に変わったところは?」
「うーん、そうですね。まぁ、いつもと変わらず前世はコアラというよりナマケモノか、ってレベルでぐうたらしてるくらいで……」
「……なんだか頭がクラクラして来ましたわ」
「あ、そう言えば、変わったとは違うかもしれませんけど、この一年で前より外出とかしてくれるようになりましたね。ほら、今日だってヒナギクさん達とお買い物に出掛けましたし」
「そう言えばそうですわね〜。前までだったら密林で買えばばいいではないかー、とかなんとか言って出来るだけ外出しないようにしてましたから。……ハヤテ君、前失礼しますね」

 ある程度後髪を切ったのか、マリアさんは今度は前へ回り前髪を切り始めた。
 シャンプーの匂いか洗剤の匂いか。それとも女の子にはそういう機能がもともと備わっているのか、甘い匂いが鼻孔をくすぐる。

「……でも」

 慎重に前髪を切っていきながらマリアさんは、少し、寂しそうな顔で呟いた。

「そういう成長は嬉しいですけど、何だか複雑な気分ですわ」
「……マリアさん?」
「ナギがこうやって外出するようになって友達も増えて……。そう言うの、全部ハヤテ君が来てからなんですよ」

 ぱさり、と前髪がハサミで切られ床に落ちる。

「ハヤテ君が来る前は私が何を言っても部屋に引きこもりっぱなし。私が初めてナギに会ったときなんてもっと酷かったんですよ?」
「簡単に想像できてしまうのが、なんとも……」
「小学校だって、義務教育だから行かなくても問題ない。なんて分けのわからない道理を並べ立てて全然行こうともしませんでしたし」
「お嬢さま……」

 当時のマリアさんの苦悩を思うと、涙がちょちょぎれる思いだった。
 それを考えると、今のお嬢さまの姿はあれでも成長しているのだ。成長を喜ぶべきなのかもともとの低さに悲しむべきなのか判断に困るところではあるが。

「だから、ナギが学校に通うようになるようにと思って私もいろいろと手を尽くしたんですよ。クラウスさんとも相談して、もしかしたら紫子さんが亡くなられたのが原因じゃないかって。それで、紫子さんの代わりになるようなことを色々としてみたんです」
「へぇ……。例えば、どんなことを?」
「紫子さんっぽく歌を歌ってみたりとか、お風呂で髪を洗ってあげたりだとか、ですかね」
「歌……ですか?」
「えぇ、私がもともと歌好きっていうのもあって、これはイケる! って思ってたんですけどね。どうやら紫子さんのテンションで歌ったのがまずかったみたいでナギと大げんかになりましたよ。マリアに母の代わりが務まるものか! って」
「へぇ……。ちなみに、紫子さんのテンションって言うのは? だいぶ愉快な方だったとお嬢さまから聞きましたけど……」
「え……っと、ですね……」

 僕がそう問いかけると、都合が悪そうに顔をそらすマリアさん。顔も若干赤くなっていて――と言うか鏡にばっちり顔が映っているので背けてる意味ないんですけどね。

「マリアさん……?」
「い、いえっ! もう昔のことなので忘れてしまいましたわ! そ、それよりですねっ、えっと、あ、そう! この髪を切るのも紫子さんがナギの髪を切ってたとかで!」

 あまり思い出したくない記憶なのか、マリアさんは慌てて話題を逸らした。折角なので後でお嬢さまに聞いておこう。

「あぁ、だから散髪も出来るんですね」
「えぇ。でも、最初はあまり上手くいかなくて。クラウスさんを練習台にしてたんですけど、当時は帽子なしに外を歩けなかったみたいですよ」
「それはまた……。クラウスさんは当時から損な役回りだったんですね」
「えぇ、まぁ。でも、クラウスさんもナギのためを思ってやってくれてるので。――っと、前髪はこんな感じでどうですか?」

 前髪を切り終え、マリアさんは僕に確認を求めてきた。切ったのはだいたい一センチくらいだろう。目にかかる程だった前髪は長すぎず短すぎず、ちょうどいい長さになっていた。

「おお、ちょうど良い感じですね」
「じゃあ、全体的にちょっと整えてお終いですね」

 そう言って、ちゃきちゃきと手際よく髪を整えていく。紫子さんも、こんな感じでお嬢さまの髪を切っていたのだろうか。

「……まぁ、そんな感じでナギの母親代わりになろうって思ってたんですよ」
「へぇ、じゃあ、マリアさんにとってお嬢さまは娘みたいなものなんですね」
「……いえ、それは。どうやっても私が紫子さんみたいになるのは無理だって気付きましたから。今は……そうですね、世話の焼ける妹、って感じですかね」

 さ、出来ましたよ。
 マリアさんはそう続け、一仕事終えたという風にパンパンと手を叩いた。
 鏡を見ると、髪も短くなりサッパリした様子の僕が映し出されていた。男にしてはまだ長いほうだとは思うが、暑苦しい様子も見苦しい感じもしない。切る前より二割増でカッコよく見えたりして、なんて。

「いやー、サッパリしました。ありがとうございます、マリアさん」
「どういたしまして。女の子みたいな髪型にしたくなったらいつでも言ってくださいね」
「いや、それは遠慮しときます……」

 椅子から立ち上がり、マリアさんの片付けを手伝いながらそう言うと、マリアさんは愉快そうにクスクスと笑みを零した。
 そして、それとほぼ時を同じくして。

「ただいまー!」

 玄関からお嬢さま達の声が耳に届いたのだった。



「お帰りなさいませ、お嬢さま」
「うむ! 今帰ったのだ!」

 僕とマリアさんが玄関まで出迎えると、お嬢様たちの手には様々な袋が持たれていた。

「お買い物はどうでしたか? 皆さん」
「欲しい物も買えたし、結構良かったわ。ね、歩」
「うんうん。文房具とか手帳とか」
「あと、レア物の同人誌も」
「それはカユラだけだろ?」
「大丈夫、後でナギにも見せてやる」
「あ、それ私にも貸してくれ」

 どうやら、服に文房具、果ては同人誌に渡るまで買い物を楽しんできたようだった。
 うんうん。お嬢さまもこうやって年相応にショッピングを楽しむようになったのだな、と思うと感動の涙がこみ上げる想いだ。

「あ、それでナギ。あれ渡さないの?」
「ん? あぁ、そうだったな。えーと、確か別の袋にしたんだよな……」
「もう。確かその白い袋じゃなかった?」
「どれ。あぁ、これだこれだ。はいこれ、マリアに」

 ヒナギクさんの言葉に、ナギお嬢さまは手に持った袋のうちの一つを取り出した。
 それから、大事そうにマリアさんに手渡した。外見的に、中身はそこそこ大きめで四角い――板のようなものだろうか。

「……これは?」
「今日は母の日だからな。皆でマリアにプレゼントを買ってきたのだ」
「いや、私は別にお母さんでは……」
「良いの! マリアはそんじょそこらのお母さんよりお母さんだからな。日頃の感謝を込めて、皆からのプレゼントだ」
「はぁ……。開けてもいいですか?」
「うむ!」

 お嬢さまが頷くのを見て、マリアさんは袋を開ける。

「これは……ボード、ですか?」

 袋から出てきたのは、コルク製のボードだった。大体横に四十センチ、縦に三十センチくらいだろうか。シンプルなデザインで、どこに飾っても違和感のないような代物だ。

「あぁ。写真ボードかなにかにしてくたらな、って。部屋に飾れて丁度いいだろ?」
「ナギ……。ふふっ、ありがとうございます」
「うむ。どういたしまして。……それじゃ、早速一枚目を撮ろうではないか!」
「はいはい。どこで撮るんですか?」
「さっきルカに会って、庭でもう準備してもらってるのだ! アパートの皆で撮るのだぞ!」
「はーい。了解ですわ」
「ほら、ハヤテも早く! ……ってお前、髪切ったのか?」
「えぇ、お母さんお手製の髪型です」
「ちょっとハヤテ君! だから私はまだお母さんなんて言われる歳では……」
「まぁまぁ、良いじゃないですか。……お母さん代わりになろうと思ってたんでしょ?」
「……もう!」

 マリアさんは、僕の言葉に不満げに頬を膨らませた。
 けれど、その仕草は嬉しそうににやける表情を隠しきれていなくて。

「ほら、写真を撮るなら早く行きますよ。そろそろ夕食の買い物に行かないといけませんし」
「あ、今日の晩御飯なに?」
「カレーですわ」
「やった!」

 それでもにやけた顔を隠そうとそそくさと庭に出て行こうとするマリアさんの手に、お嬢さまは自らの手を伸ばすのだった。

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