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「ハヤテのごとく!」
アナタの笑顔は眩しくて。

アナタの笑顔は眩しくて。

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 二人で一つなら良かった。アナタの鞄を一緒に背負えたから。
 二人で一つなら良かった。アナタの鞄の重さが分かったから。
 二人で一つなら良かった。ずっとアナタの側に居られるから。
 ──でも。二人で一つだったなら、アナタに出会うことは出来なかった。



「マリアちゃん! 大変だよ! 大変!」

 放課後の生徒会室。穏やかな空気の流れるその空間に、牧村さんのけたたましい声が響き渡った。

「どうしたんですか? 牧村さん?」

 私は手に持っていた湯呑を啜り、問いかける。

「今、何気なくマリアちゃんの下駄箱を漁ってたらさ」
「何気なく何処を漁ってるんですか! 何処を!」
「ちょっと気になる会話を聞いたんだよ!」
「人の話を聞きなさい! ……で、気になる会話って何ですか?」
「うん。何かね、初等部に不登校の子がいるみたいだよ。今日も学校休んでるみたいだし」
「……え?」

 牧村さんの言葉に私の耳がピクリ、と反応した。
 もしかして、あの子……。
 私は鞄を手に取り立ち上がる。

「どうしたの? マリアちゃん」
「牧村さん! 今日は帰ります!」
「え? いや、でも書類がまだ――」
「その辺は牧村さんにお願いします!」
「いやいや、無理だって!」
「すみません! ちょっと、気になる子がいるんです!」

 そう言い残し、生徒会室を飛び出しながら、私は一人の女の子を思い浮かべる。
 ――不登校。きっと、あの子だ。



 ――三千院ナギ。それが現在、私の気になる人の座を射止めている少女の名前だった。
 名目上、私の教え子と言うことになっている世界的大富豪の孫娘である彼女に出会ったのはつい昨日、帝おじい様にナギお嬢様の家庭教師として紹介されたのが始まりだ。
 第一印象は『引きこもり』。正にキング・オブ・ニートを体現したような少女で、まるで世の中に砂浜の砂粒ほどにも興味を持ってないような目をしているのが、ひどく印象に残っていた。

「お嬢様? 今日は小学校があった筈では……?」

 私はテレビの前でピコピコとコントローラを動かすナギお嬢様に声をかけた。

「……別に。義務教育だし」
「いや、義務教育の意味、分かってます?」

 素っ気なく答えるナギお嬢様。
 どうも、昨日ゲームで負かしてから態度が冷たい。

「あんなの、行かなくても卒業できるのだ。行くだけ無駄だ」
「内申は最悪でしょうけど……」

 ……しかし、気になる理由はそれだけではなかった。
 その腐った魚のような目の中に、私はある種の『心の溜め息』を感じたのだ。
 悲しみ、背負う罪の意識、そして、絶望。そして、私は彼女の笑顔を一度も見たことが無かった。
 この子は心の奥底にそんな負の感情をぐるぐる竜巻のように渦巻かせて、それを溜め息として吐きだしている。
 ――私には、そんな風に見えた。
 私はそんな彼女を放っておけなかった。恵まれた家に生まれ、恵まれた生活を過ごす彼女が、そんな気持ちを抱いているのが許せなかった。
 だから。

「ナギお嬢様は何故溜め息を吐いておられるのですか?」

 私は問いかけた。

「っ……!」
「何故、溜め息をついておられるのですか?」
「……それを……。それを、お前が知ってどうする? お前は私の溜め息の理由を知って理解する事が出来るのか? ただ、同情するだけだろう!」
 ナギお嬢様の少し怒気を孕んだ言葉。それを無視し、私は続ける。
「何をそんなに背負っているのです? 何にそんな絶望しているのです? 何故、世の中を避けるのです?」
「……お前に」

 お嬢様は静かに口を開く。

「お前に、何が分かる!! 出ていけ……!! 出ていけ!!」

 その口から零れ出たのは、拒絶の言葉だった。



「……お嬢様を怒らしてしまったか。マリアよ」
「あ……クラウスさん」

 お嬢様に部屋を追い出されて暫く。私に声をかけてきたのは、三千院家の執事長であるクラウスさんだった。
 確かナギお嬢様のお母様、紫子さんが幼少の頃から執事をしているような大ベテランで、ナギお嬢様の事も生まれた時からの付き合いだとか。

「お嬢様は一度、機嫌を損ねるとなかなか難しいぞ」
「えぇ……。そのようですね」

 私はクラウスさんの言葉に頷く。

「先ほどから負のオーラを漂わせています」
「じゃろ?」
「何とか機嫌を取り戻したいのですが……」
「その事なら、ワシに任せてくれ」

 クラウスさんは「伊達に長年執事をやってないわ」と言いながら、部屋の中へと入っていき。

「お嬢様――」
「うっさいバーカバーカ! 二度と入ってくるな!」

 ボロ雑巾のようになって出てきた。

「…………」
「…………」
「えっと……。……任せてくれ?」
「……コレは悪い例じゃ」

 クラウスさんはそう呟き、立ち上がる。

「マリアよ。お嬢様に何をしたのだ?」
「いえ。ただ、少し声をかけただけです」

 何故、溜め息を吐くのか。何故、その身に重みを背負うのか。それを聞いただけです。

「お前という奴は……。また、面倒な事を聞いてくれたものじゃ」
「そうですか? お嬢様は誰かに聞いて欲しいと思っている気がしますけど」
「…………」

 私の言葉に沈黙が続く。暫くして、クラウスさんは感慨深げに口を開いた。

「そうかも、知れぬな」

 少し、昔話をしよう。マリアはどうやら、お嬢様に気に入られているようじゃし。
 そう続けたクラウスさんの言葉は――彼女の持つ『負の感情』の根源を推して量るのに、十分すぎる程十分で。
 私はもう一度お嬢様にこの話をするべきだと確信したのだった。



「お嬢様。もう一度聞きます。何をそんなに溜め息を吐いておられるのですか?」

 夕食も終わり、ナギお嬢様がまたもゲームを始めた午後八時頃。
 私は単刀直入に同じ問いを投げかけた。

「うる――」
「お母様――紫子さんが、亡くなられたからですか?」
「っ……!!」

 お嬢様の肩がビクン、と跳ねる。恐らく、図星。

「お母様が亡くなられたから、アナタがお母様とケンカ別れをしてしまったからですか?」

 クラウスさんから聞いた話。それは、お嬢様の母親である紫子さんが亡くなられた時のことだった。
 お嬢様は紫子さまとケンカ別れし、そのまま謝ることが出来ないまま紫子様は逝ってしまわれた。それを罪の意識として背負っているのではないか。

「……同情のつもりか? 誰に聞いたかは知らない。だが、お前は私の事が理解できるのか? 私でもないのに、その理由の真意を!!」

 また、その言葉。頭に血が昇っているのか、その言葉は荒々しかった。

「……理解は出来ないかも知れません。けれど、知ることはできます」
「迷惑だ!! 解らないクセに知りたがる。知ることで何が起きると言うのだ!!」
「何も起こらないかも知れません。けれど、私にはお嬢様が知って欲しいと思っているように見えますが」
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ!! お前に私の気持ちが分かってたまるか!!」

 私の気持ちが分かってたまるか。その言葉に、私の頭にも少々血が昇る。

「一人、二親を亡くした悲劇のヒロイン気取りですか?」

 キツイ言い方。それは、自分でもよく分かった。けれど、言葉の奔流は止められない。

「自分が一番不幸だと思っているんですか? 温室で、何をやるにも苦労することが無い程の温室でぬくぬくと育って! 例え僅かな間だとしてもアナタは親の愛情を受けてきた! そんな、そんなアナタが――」
「お前には……お前にはそんな経験が無いから言えるのだろう!? 親を亡くした気持ちがお前に分かるものか! 大体、そんな偉そうな口を聞くお前だって結局は温室育ちなんじゃないのか?」

 私の言葉を遮り、一気に捲し立てたお嬢様の言葉に……私は身体を巡る血流が一気に頭へ集中して行くのが手に取るように分かる。
 ――無理だ。もう、我慢できない。

「お嬢様こそ……」

『結局は、温室育ちなんじゃないのか』
 その言葉は、許せない。

「お嬢様だって、私の何が分かっていると言うのですか! 親の愛を知っているだけでどんなに幸せなことかアナタは分かってない! 本当の親の愛を知らない子の気持ちをアナタは分かっていない!」

 言葉の洪水。自分で自分を押さえきれない。

「本当に何も理解してないのはアナタだ!」

 そう叫ぶ。それと同時に私の頬をゲームのコントローラが掠めた。

「私はただ母と仲直りがしたかった! もっと、母と一緒に居たかった!」
「結局は他人である自分がこのお屋敷でどんなに肩身の狭い思いをしたか!」

 クッションが舞う。椅子が舞う。花瓶が舞う。
 手当たり次第周りにあるモノを投げ、それが無くなるとひたすら口をついて出てくる言葉を叫びながら掴み合う。



 二人が二人だったから。お互い自分を理解して欲しかった。
 二人が一人だったなら。お互い相手を理解する必要は無かった。
 二人が二人だったから。お互い相手の痛みを分けて欲しかった。
 二人が一つだったなら。お互い自分の痛みを背負うだけで良かった。





 気付けば私は床に倒れていた。お嬢様も、荒い息を吐いて倒れている。

「……結局、何も分からなかった」
「……そうですね」

 髪は乱れ、体中傷だらけになっても、お嬢様の気持ちを理解することは出来なかった。
 否。それはもともと不可能に近い。

「でも、ま……。それは仕方ない」

 結局私たちは二人だからな。お嬢様はそう言って起き上がり、大きく伸びをした。

「でも、それも悪くは無い。――ありがとう。マリア」
「どういたしまして。お嬢様」

 そう言った私に彼女は告げる。

「……ナギで良い」

 だから、私もお前の事はマリアと呼ぶ。
 私はその言葉にゆっくりと頷き。

「――どういたしまして。ナギ」
「うむ!」

 元気に頷いた彼女の笑顔は、昇り始めた太陽のようで。眩い光を放っていた。


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